松岡病院

佐賀県鳥栖市西新町。精神科救急、内科救急指定。認知症専門病院。佐賀県物忘れ相談ネットワーク登録病院。

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新着情報

くれないかい6月(2021年はインスリン発見から100周年!)更新しました。

 今年の梅雨入りは平年より20日も早い梅雨入りとなりました。しかし梅雨明けは平年並みとの予想です。約2ヶ月余りの梅雨となりますが体調管理に十分お気をつけください。

くれないだよりは一年以上毎月変わらず新型コロナウイルス関連一色になっています。

    さすがにコロナ疲れになっていると思いますが出口は見えてきています。変異株の心配はつきませんが今は一刻も早くワクチン接種が世界中で加速していくことを願うばかりです。松岡病院スタッフ一同、医療者としてワクチン接種にも協力をしていきたいと思っています。

    病気と向き合うためには予防としてのワクチン開発だけでなく検査や治療薬の開発も必須です。今から100年前の1921年に糖尿病治療の技術革新を起こしたインスリン分子が発見され数えきれない程の命が救われてきました。今月はコロナではなくて、画期的な糖尿病治療の幕開けとなったインスリンのお話をしたいと思います。

 

糖尿病に苦しむ人々。。。

  

  糖尿病は生活習慣病として不摂生が大きな原因のひとつと言われています。しかし実は紀元前1500年頃の古代エジプトのパピルスという書物に糖尿病の最古の記録があります。日本においても平安時代の藤原道長が日本における第一号の糖尿病患者と考えられています。彼の生活は飽食で運動不足、加えて権力争いによる大きなストレスがあり晩年には失明し背中の出来物が化膿し亡くなったと伝えられています。現在多くの方が罹患している2型糖尿病が原因でした。

一方、1型糖尿病生活習慣には関係なく、主に幼少時期から高血糖と多尿のため高度の脱水と体重減少で死亡に至る不治の病でした。いずれも膵臓から分泌されるインスリンの作用不足による病ですが、1型糖尿病は何らかの原因で膵臓インスリンを作る細胞が壊されてインスリンが全く作られなくなる病気です。100年前は1型糖尿病になったら死を待つしかなかったのです。

 

インスリンの発見!

 

    1869年ベルリン大学の医学生パウル・ランゲルハンスは膵臓でインスリンを分泌するランゲルハンス島という細胞集団を見つけましたがこの細胞が何をしているのかは解明できませんでした。1921年にトロントのフレデリック・バンティングとチャールズ・ベストが犬の膵臓からインスリンを抽出することに成功1922年に14歳で体重がわずか29kg余りの少年レオナルド・トンプソンにインスリン治療を行いレオナルドの血糖値が低下することを確認しました。インスリンによって最初に救われた命です。

 

インスリン治療の進歩

 

    インスリンの発見と投与による高血糖の改善によってインスリン製造が商業化します。1946年にはインスリンの作用時間を持続させるための添加物を工夫して注射回数を少なくするNPHインスリン製剤の開発とともに、1970年代には自己血糖測定器も開発され自宅で血糖値を測定することが可能になりました。1982年には牛や豚から抽出されたインスリン製剤から遺伝子組み換え技術によって初めてのヒトインスリン製剤が発売され1983年には一日を通してインスリンを注入できるインスリンポンプの開発と普及が始まりました。1985年にはガラスの注射器から管理が簡単かつ安全になるインスリンペン型注入器が誕生し一気に糖尿病の人々の生活の質が向上しました。

   1996は生理的なインスリン分泌を再現できるインスリンアナログ製剤の登場、1999年には持続的に血中の血糖値を測定できるCGMシステムも承認されました。2018には日本でも血糖値をリアルタイムでモニタリングし自動的にインスリンを調節するインスリンポンプが発売されています。SAP療法といい1型糖尿病の低血糖リスクを増大することなくコントロールを改善することができるようになりました。

 

糖尿病治療の未来

 

 インスリンポンプを完全自動化した人工膵臓やiPS細胞を利用した再生医療はもちろん、治療薬としてのインスリンを注射ではなくスプレーによる吸入薬や点鼻薬、経皮からの投与も開発されています。血糖値を正常化するための様々な治療薬も開発段階です。

100年先には糖尿病の治療の基本である食事療法や運動療法についても消化吸収を自動的にコントロールできたり、運動の効果があるような器具が出てくるかもしれません。生活習慣病の概念も変わっているかもしれないと思うと近未来を覗いてみたくなります。

 

    糖尿病の治療の歴史をみても医療の進歩は日進月歩です。おそらく100年後はコロナとの付き合いも変わるかもしれません。「マスクやソーシャルディスタンスをしていた昔が懐かしいよね」と近い将来は楽しい団欒を囲んでいるかもしれませんね。そういう未来が来ることを待ち望んでいます。

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  2021/06/01   matsuoka